“受入停止”の裏で進む制度接続 ― 育成就労に「外食」が入った意味

特定技能「外食業」の受入れが、上限到達によって一時停止されたことが話題になっています。

ニュースなどでは、「外食業での外国人受入れの縮小」、「今後は外食で外国人を採用できなくなるのでは」

といった印象的な見出しで報じられることも少なくありません。

また最近では、ラーメン・中華料理チェーンの「日高屋」が特定技能外国人新規受け入れ停止によって「今後は日本人の高校卒業生や大学卒業生、専門卒を中心に取るしかない」と発言し、日本人労働者を軽視しているかのように受け取られかねない表現ということでSNSで炎上してしまうという事件もありました。

参考記事:中華チェーン「日高屋」社長発言を謝罪 外国人が駄目なら日本人を採用…「配慮を欠いた表現となりました」

そのため、ニュースの報道内容や一部の外食企業の外国人人材採用の見直しの対応を見ていると、外食業での外国人の受入れは「今後は縮小していきそう」という印象を受けます。

しかし、育成就労制度の運用要領を見ていくと、実は少し違った景色も見えてきます。

むしろ制度全体としては、外食分野における外国人受入れを、より長期的・構造的に接続していく方向へ進んでいるようにも見えるのです。

目次

育成就労制度は「特定技能1号への接続」を前提としている

育成就労制度の運用要領では、その目的について次のように記載されています。

「育成就労制度は、育成就労産業分野において、3年間の就労を通じて特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的としています。」

ここで重要なのは、「特定技能1号水準の人材を育成する」という点です。

つまり、育成就労制度は、旧技能実習制度のような“別枠の制度”というよりも、「特定技能1号へ接続するための前段階」として設計されていることが分かります。

そして、そこに「外食」が入った

今回、自分が運用要領を見ていて特に印象的だったのは、育成就労の対象分野に「外食」が入っていたことです。

これは実はかなり大きな変化です。

旧技能実習制度では、外食分野は対象外でした。

そのため、

  • 技能実習 → 外食 → 特定技能

という流れは存在しておらず、

外食業で特定技能として働くためには、

  • 日本国内または、国外で「外食業特定技能1号技能測定試験」で試験を受ける
  • 日本語能力試験(JLPT)「N4以上」または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)「A2以上」の合格が必要

といった上記2つの要件をクリアして働くルートしかありませんでした。

つまり、技能実習と特定技能の間に“分断”があったのです。

しかし今回、育成就労制度に外食が入ったことで、

  • 育成就労
  • 特定技能1号

という制度接続が、外食分野でも明確に作られ始めています。

「試験に合格した人材」と「現場で使える人材」は違う

なぜ政府が今回、「外食」を育成就労制度へ組み込んだのか。

この点を考える上では、単に制度上の接続だけではなく、外食業界そのものが持つ“現場の特性”も見ていく必要があります。

外食業というのは、単純に資格試験へ合格すればすぐに即戦力になる、という業界ではありません。

むしろ実際の現場では、働きながら経験を積み、チームの中で少しずつ育っていく側面が非常に大きい仕事です。

その意味では、「育成しながら特定技能1号レベルへ接続していく」という今回の制度設計は、外食業界の実態とも一定程度整合しているようにも感じます。

もちろん今の飲食業界は、

  • セントラルキッチン
  • 仕込みの外部委託
  • マニュアル化
  • オペレーションの均一化

なども進んでいます。

大手チェーンなどでは、工場で仕込みの大部分を行い、それを各店舗へ配送する形も一般的になっています。

しかし、それでもなお、飲食店の現場は“人”で動く仕事です。

そして何より、飲食は「チームで動く仕事」です。

飲食の現場は、毎日違う

例えば工場のライン作業のように、毎日まったく同じ動きが繰り返される仕事とは少し違います。

飲食店では、

  • お客さんの入り方
  • オーダーの順番
  • 混雑状況
  • スタッフ同士の連携

これらが毎日変化します。

同じ一日というものがほとんど存在しません。

だから現場では、「その場でどう動くか」という柔軟性が求められます。

つまり、

  • 空気を読む
  • 周囲を見る
  • タイミングを合わせる
  • チームに溶け込む

といった能力が非常に重要になります。

これは、単純な筆記試験や技能試験だけでは測りにくい部分です。

飲食での現場は「修行」の世界

料理人の世界は様々な動機を持った人が入ってきます。

最初から「自分は料理人になりたい」と思って入る人もいれば、色々な仕事を経験した後に飲食へ入る人もいます。

そして外国人留学生の中にも、最初は単なるアルバイトだったけれど、実際に現場で働くうちに、

「飲食って面白い」

「料理の世界に進みたい」

と思うようになる人もいるはずです。

でも、そこで必要になるのは単なる試験合格ではなく、現場で“育っていく過程”だと私は思います。

店の空気を覚え、チームの動きを理解し、現場の流れを身体で覚えていく。

現代のように効率化されたオペレーション業務を有していても、経験を積むという意味での「修行」に変わりはありません。

だからこそ「育成就労」という考え方は、外食と相性がいい

そう考えると、外食業界においては、「試験に合格したから、すぐ即戦力」というよりも、現場で時間をかけて育成していく方が、本来の仕事の実態には近いようにも感じます。

つまり、

  • まず現場に入り
  • 実際に働きながら
  • チームの中で経験を積み
  • 徐々に戦力化していく

という流れです。

その意味で、「育成しながら特定技能1号レベルへ接続する」という今回の育成就労制度は、少なくとも外食分野においては、現場感覚と比較的整合している部分もあるように感じます。

では、なぜ今「受入停止」なのか

ここで少し不思議な点が出てきます。

現在、特定技能「外食業」は、受入れ見込み数が上限に達したことにより、一時的に受入れが停止されています。

しかし一方で、政府は新制度である育成就労制度に「外食」を組み込み、さらにその制度目的として、「特定技能1号水準の人材育成」を明記しています。

つまり制度設計としては、「将来的に特定技能へ接続する」ことを前提としているわけです。

もし今後、本当に外食分野の外国人受入れを縮小していくのであれば、そもそも育成就労に外食を入れる合理性が弱くなってしまいます。

むしろ見えてくるのは「再設計」の可能性

そう考えると、現在の「受入停止」は、“制度そのものの縮小”というより、

  • 受入れ人数
  • 分野別上限
  • 制度運用
  • 人材需給

などを一度整理するための、調整局面とも考えられます。

そして今後、

  • 上限人数の見直し
  • 受入れ枠の再設定
  • 育成就労との制度接続を前提とした再設計

が行われていく可能性も十分あるのではないでしょうか。

なぜなら、育成就労制度で3年間かけて人材を育成しておきながら、「特定技能では受け入れられません」となれば、制度全体の整合性が崩れてしまうからです。

外食分野は、日本社会の変化を象徴しているのかもしれない

外食業は、

  • 深刻な人手不足
  • 高い離職率
  • 日本語能力の必要性
  • 接客を含む長期的育成

などの特徴を持っています。

そのため、単純な“短期労働力”ではなく、現場に定着し、継続的に働く人材が求められる分野です。

そして今回、その外食分野が育成就労制度へ正式に組み込まれました。

これは単なる制度変更ではなく、日本社会が外国人労働力を、より長期的な産業インフラとして組み込み始めていることを示す動きなのかもしれません。


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