不法就労は「刑事罰」から「許認可リスク」へ?――外国人雇用企業が知っておきたい二つのニュース

目次

はじめに

最近、不法就労外国人対策に関する二つのニュースを目にしました。

一つは、警察庁、出入国在留管理庁、厚生労働省などが連携し、不法就労等外国人対策を推進するというニュースです。
※参考資料:出入国在留管理庁 不法就労等外国人対策の推進について

もう一つは、入管庁が不法就労助長を各業法の欠格事由へ追加することを提案していくというニュースです。
※参考資料:労働新聞社 不法就労助長を欠格事由に 各業法へ追加提案 入管庁

この2つのニュースは、一見すると別々のように見えます。

しかし、内容を読み進めるうちに、私はある共通点を感じました。

そして、そのきっかけとなったのが「なぜ不法就労等外国人対策に厚生労働省が入っているのだろうか」という素朴な疑問でした。

今回は、この違和感について考えてみたいと思います。

不法就労対策になぜ厚生労働省が参加するのか

不法就労外国人対策と聞けば、多くの人が思い浮かべるのは警察と入管ではないでしょうか。

偽造在留カード、不法残留、資格外活動違反など、これまでの不法就労対策は主として警察と入管が中心となって対応してきました。

そのため、警察庁と入管庁が連携すること自体には特に違和感はありません。

しかし、そこに厚生労働省が加わるとなると少し話が変わります。

厚生労働省は雇用保険、社会保険、労働条件、外国人雇用状況届出など、企業の雇用実態に関する情報を数多く保有しています。

つまり、外国人本人ではなく「雇用する企業側」の情報を持つ省庁です。

なぜ今、その厚生労働省が前面に出てくるのでしょうか。

その答えを考えるためには、少し歴史を振り返る必要があります。

かつての不法就労対策と縦割り行政

1980年代から1990年代頃、日本の行政は現在よりも縦割り行政の色が濃かったと言われています。

警察は警察。

入管は入管。

労働行政は労働行政。

それぞれが自らの所管業務を中心に対応するのが基本でした。

もちろん事件が発生した際には連携も行われていましたが、現在のように関係省庁が横断的に情報を共有しながら対策を進める体制は十分に整備されていたとは言えません。

当時は電子化も進んでおらず、行政機関ごとに保有する情報も分断されていました。

そのため、不法就労問題も比較的シンプルな構図でした。

警察が摘発する。

入管が退去強制手続を行う。

不法就労助長が認定されれば雇用主を処罰する。

いわば「発見・摘発・処罰」が中心の時代だったと言えるかもしれません。

2000年代以降に始まった大きな変化

しかし2000年代に入ると状況が変わります。

不法残留、偽装結婚、偽装就労、人身取引、国際犯罪組織への対応など、一つの行政機関だけでは対応できない問題が増えていきました。

そこで政府は関係省庁間の連携強化を進めていきます。

犯罪対策閣僚会議や人身取引対策会議など、複数の省庁が参加する枠組みが整備され、外国人問題も単独の行政機関だけで扱うのではなく、政府全体で対応する方向へと変化していきました。

つまり、不法就労問題も徐々に「入管だけの問題」ではなくなっていったのです。

2019年の転機――入管庁と特定技能制度

大きな転機となったのが2019年です。

この年、入国管理局は出入国在留管理庁へと改組されました。

単なる名称変更ではありません。

外国人の受入れと管理を強化するという国の方針が背景にありました。

そして同じ年に特定技能制度が創設されています。

日本は人手不足への対応として外国人材の受入れを拡大する一方で、その管理体制も強化するという難しい課題に取り組み始めました。

さらに現在は、技能実習制度から育成就労制度への転換も進められています。

外国人を受け入れる以上、適正な雇用管理や保護体制も整備しなければならない。

その考え方は年々強まっているように見えます。

厚労省参加が意味するもの

こうした流れを踏まえると、今回の厚生労働省参加にも別の意味が見えてきます。

不法就労外国人対策は、これまで「外国人本人」を中心に考えられることが多かったように思います。

不法残留者を発見する。

資格外活動違反を摘発する。

偽造在留カードを取り締まる。

いずれも外国人本人への対応が中心です。

しかし厚生労働省が持つ情報は違います。

雇用保険、社会保険、賃金台帳、外国人雇用状況届出など、企業側の情報です。

つまり視点が「外国人本人」から「受入企業」へ広がっている可能性があります。

もっとも、今回公表された不法就労等外国人対策パッケージの内容を見る限り、その中心は依然として不法就労外国人本人への対策であるように見えます。

実際に挙げられている施策を見ると、不法就労の予防、偽造在留カード対策の強化、不法就労の摘発、SNS等からの情報収集、自主出頭の促進など、従来から続く取締り強化の色合いが濃くなっています。

したがって、今回のニュースだけを見て「政府の関心が企業側へ移った」と評価するのは少し早計かもしれません。

しかし、その一方で厚生労働省が参加し、外国人雇用状況届出制度や有料職業紹介事業、労働者派遣事業といった分野が関係していることを考えると、外国人本人だけではなく、その雇用を取り巻く環境や受入企業にも徐々に視線が向けられ始めているようにも感じます。

私は、この点に今回のニュースの興味深さがあるように思いました。

欠格事由化提案が示すもう一つの変化

さらに興味深いのが、同じ時期に報じられた「不法就労助長を各業法の欠格事由へ追加する提案」です。

私はむしろ、こちらのニュースの方に大きな変化の兆しを感じました。

実際に法務省が公表している「不法滞在者ゼロプラン協力推進パッケージ」では、

「不法就労助長罪を各業法の欠格事由に盛り込むことを提案(法改正が必要、関係省庁)」

との記載が見られます。

【参考資料:不法滞在者ゼロプラン協力推進パッケージ】

記事の冒頭で紹介しました「不法就労等外国人対策の推進」を見る限り、その中心は依然として不法就労外国人本人への対策であるように見えます。

しかし、同時期に入管庁から不法就労助長を各業法の欠格事由へ追加する提案が出ていることを考えると、私は少し違った側面も感じます。

摘発や処罰という従来型の対策を強化する一方で、不法就労を発生させる企業側の管理責任にも徐々に視線が向けられ始めているのではないでしょうか。

実際、企業側の確認義務は既に以前より重くなっています。

過去には、在留カードを確認していたにもかかわらず、不法就労助長罪で処罰された事例もありました。

詳しくは以前の記事「在留カードを確認したのに罰金?会社がハマる不法就労助長罪の落とし穴」で解説していますが、単に在留カードを目視で確認しただけでは十分とは言えないケースもあります。

つまり、不法就労問題において企業側へ求められる注意義務は、既に以前より重くなっていると言えるでしょう。

そして今回の欠格事由化提案は、その流れをさらに一歩進めるもののようにも見えます。

実際、その後の報道では、入管庁が関係省庁に対し、不法就労助長罪を各業法の欠格事由に追加し、一定期間は同種の事業を行えない制度の導入を要請する方針であると報じられました。

もっとも、現時点ではまだ法改正前であり、制度の具体的な内容が決まったわけではありません。今後、どのような制度設計となるのかは、関係法令の改正内容を見守る必要があります。

しかし、「一定期間、同種の事業を行えない」という方向性が示されたことは、不法就労助長が単なる刑事罰の問題にとどまらず、事業そのものにも影響を及ぼし得る問題として位置付けられつつあることを示す動きとして注目されます。

【※参考記事:不法就労助長罪の「欠格事由」追加、入管庁が要請へ…一定期間は同業の事業不可に】

特に欠格事由化という発想は興味深いものです。

なぜなら、それは刑事罰の強化ではなく、「その事業を営む適格性」の問題だからです。

これまで不法就労助長は主として入管法違反として処理される問題でした。

しかし、欠格事由という考え方が導入されれば話は変わります。

それは刑事法の世界だけではなく、行政法の世界の問題にもなります。

私はここに、不法就労問題が刑事法の世界だけでなく、企業コンプライアンスの世界にも少しずつ広がり始めている兆しを見るのです。

二つのニュースに共通する流れ

厚生労働省との連携強化。

そして不法就労助長の欠格事由化提案。

一見すると別々のニュースです。

しかし、その根底には共通した流れがあるように感じます。

それは、不法就労外国人を摘発するという発想から、不法就労を発生させない企業の管理体制を重視する発想への変化です。

もちろん、その変化はまだ途上段階なのかもしれません。

現在の対策の中心は依然として外国人本人への対応です。

しかし、その一方で受入企業の責任や管理体制にも少しずつ焦点が当たり始めている。

私はそのような変化を感じました。

おわりに

もちろん、現時点ではまだ会議や提案の段階です。

制度改正が決まったわけではありません。

また、今回の不法就労等外国人対策パッケージを見ても、その中心は依然として不法就労外国人本人への対策であるように思います。

しかし、厚生労働省の参加や、不法就労助長の欠格事由化提案といった動きを見ていると、外国人本人への取締りだけでなく、受入企業の管理体制にも徐々に焦点が当たり始めているように感じます。

1980年代から現在までの流れを振り返ると、日本の外国人雇用政策は一貫して「受入れ」と「管理」の両方を強化する方向へ進んできました。

今回の二つのニュースは、その流れを象徴する出来事なのかもしれません。

そして、もし私の見立てが正しければ、今後企業に求められるのは在留カードの確認だけではなく、外国人雇用全体を適正に管理する体制そのものになっていく可能性があります。

厚生労働省が加わったことへの違和感は、そうした変化の兆しを示しているように感じました。


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