なぜイタリア人は洗剤でカフェティエラを洗うと怒るのか

なぜイタリア人は洗剤でカフェティエラを洗うと怒るのか

目次

YouTubeで見た一本の動画

先日、YouTubeで面白い動画を見ました。

イタリア人とルームシェアをしている外国人が、カフェティエラ(モカポット)を洗剤で洗ったところ、イタリア人が激怒するという内容です。

もちろん動画なので演出もあるかもしれません。

しかし、私はその動画を見て思わず笑ってしまいました。

「いや、これはイタリア人なら怒るだろうな」

そう思ったからです。

私は以前、イタリアのフィレンツェで数年間生活し、料理人として働いていました。

だからこそ、その動画が妙にリアルに感じられたのです。

カフェティエラは洗剤で洗わない

日本人にとって、使った器具を洗剤で洗うのは当たり前です。

しかしイタリア人の中には、

「カフェティエラを洗剤で洗うな」

と本気で考えている人がいます。

理由は単純です。

洗剤の匂いがコーヒーに移るからです。

また、長年使い込んだカフェティエラにはエスプレッソの香りや油分が馴染んでいるという考え方もあります。

そのため、お湯や水で軽くすすぐだけという人も珍しくありません。

衛生面だけを考えれば賛否はあるでしょう。

しかし彼らにとって重要なのは、合理性よりも「美味しいエスプレッソを飲むこと」なのです。

実は料理の世界にも似た感覚がある

もっとも、この話を聞いても、

「いや、洗剤で洗った方が衛生的では?」

と思う人は多いでしょう。

実際、私も最初に聞いた時はそう思いました。

ただ、料理人として考えると、イタリア人の感覚がまったく理解できないわけでもありません。

私が思い出したのは、出汁巻き卵用の銅製のフライパンです。

銅製のフライパンはテフロンとは別物

現在、家庭ではテフロン加工された出汁巻き卵用のフライパンが主流です。

しかし専門店や料理人の世界では、今でも銅製の出汁巻きフライパンが使われています。

銅は熱伝導率が非常に高く、火を入れると鍋全体に素早く熱が伝わります。

そのため表面にはしっかり火が入りながらも、中はふんわりとした理想的な出汁巻き卵を作りやすいのです。

ただし、銅鍋には大きな欠点があります。

とにかく卵がくっつきやすいのです。


美味しい出汁巻き卵はフライパンの状態で決まる

出汁巻き卵は、卵液を流してから巻き上げるまでを素早く行わなければなりません。

卵液を流し、

表面だけに火が入った瞬間を見極め、

手際よく巻いていく。

このタイミングが少しずれるだけで仕上がりは変わります。

ところがフライパンの状態が悪いと卵がくっつく。

くっつけば当然、巻くタイミングもずれます。

結果として、理想的な出汁巻き卵から遠ざかってしまうのです。

つまり料理人にとって重要なのは、銅製のフライパンを使うことだけではありません。

フライパンを常に良い状態に保つことも、美味しい出汁巻き卵を作るための重要な要素なのです。

私が今も続けている手入れ

一般的な手入れ方法としては、中性洗剤で洗い、使用前に油ならしを行う方法が紹介されています。

実際、それは正しい方法だと思います。

一方で私は家庭で使う銅製のフライパンについては、使用後に軽く水洗いし、水分を飛ばした後に薄く油を塗って保管しています。

もちろん次に使う時には油ならしも行います。

こうするとフライパンの状態が安定しやすく、比較的短時間で出汁巻き卵を焼ける状態に持っていけるからです。

もちろん衛生管理が厳しく求められる飲食店と家庭での使い方を同列には語れません。

ただ、私自身はそうした感覚で銅製のフライパンと付き合っています。

YouTubeの動画を見て妙に納得した理由

だからこそ、カフェティエラを洗剤で洗われて怒るイタリア人の動画を見た時、私は思わず納得してしまいました。

もちろんコーヒーと出汁巻き卵は別物です。

しかし、

「最高の状態で使いたい」

「味を損ないたくない」

「美味しい状態を維持したい」

という感覚は非常によく似ています。

おそらくイタリア人が守ろうとしているのも、単なる習慣ではありません。

彼らが信じる、

「一番美味しいエスプレッソ」

なのだと思います。

この感覚はエスプレッソだけの話ではない

この感覚は、実はエスプレッソだけの話ではありません。

イタリアで暮らしていると、食べ物全般に対して同じような価値観を感じる場面が何度もありました。

私が実際に経験したものをいくつか紹介します。

夜のカプチーノはなぜダメなのか

実際、私がイタリア人に指摘されたことなのですが、夜にカプチーノを飲んでいた時のことです。

あるイタリア人から、「カプチーノは朝飲むものだ」と注意されました。

もちろん法律ではありません。

夜に飲んだからといって何か問題が起きるわけでもありません。

しかし彼らの感覚では、「なんで夜に飲むの?」というレベルで違和感があるようでした。

日本人からすると不思議な話ですが、イタリア人にとってはごく自然な感覚なのです。

パイナップルピザ論争は世界共通

イタリア人の食へのこだわりを語る上で、パイナップルピザは外せません。

日本では好きな人も多いでしょう。

私自身もパイナップルピザは好きです。

しかしイタリア人の中には、

「ピザにパイナップルを乗せるなんて冒涜だ」

と本気で考えている人がいます。

SNSなどでも、パイナップルピザに対するイタリア人の反応が話題になることがあります。

もちろん全員ではありません。

しかし、それだけピザという料理に対する誇りが強いということなのでしょう。

ドミノピザを誰も食べなかった夜

これは、ニュージーランドに住んでいた頃の話です。

日本人の私を含め、イタリア人やニュージーランド人など様々な国籍の友人たちとパーティーをしたことがありました。

その時、一人のシリア人がドミノピザを持ってきました。

私は普通に食べました。

美味しかったからです。

ところがイタリア人たちは誰も手を付けません。

そして一人がこう言いました。

「私たちはこういうピザは食べない」

彼らにとっては、それは本場のピザではなく「ジャンクピザ」だったのです。

その時の光景は今でもよく覚えています。

なぜそこまで怒るのか

振り返ってみると、

カフェティエラを洗剤で洗う話も、

夜のカプチーノも、

パイナップルピザも、

ドミノピザも、

根っこは同じなのかもしれません。

イタリア人は食べ物やコーヒーを単なる栄養補給とは考えていません。

そこには長い歴史があり、

文化があり、

そして自分たちなりの美学があります。

だからこそ、

「それは違う」

と本気で主張するのです。

日本人から見ると少し大げさに見えることもあります。

しかしフィレンツェやニュージーランドで出会ったイタリア人たちを思い出すと、あのYouTube動画は決して大げさには見えませんでした。

彼らが守ろうとしているのは、古い習慣ではなく、自分たちが信じる最高の味なのかもしれません。


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