外国人労働者は増える。でも「居場所」は減っていく?― 経営・管理ビザ3,000万円要件から考える

経営・管理の在留資格について、2025年10月から許可基準が大幅に見直されました。

特に大きな変更となったのが、事業規模について3,000万円以上という基準が設けられたことです。法人の場合は資本金または出資総額、個人事業の場合は事業所の確保、職員の給与、設備投資など、事業を営むために投下されている総額によって判断されます。

この改正については、不適切な在留資格取得を防止し、経営者として一定の事業規模や経営能力を求めるという政策的な目的があります。

その一方で、私はこの制度について、少し違った視点から気になっていることがあります。

それは、外国人による小規模な店舗や事業が減少することによって、日本で生活する外国人の「居場所」まで減ってしまうのではないか、ということです。

目次

日本は外国人労働者をさらに受け入れようとしている

現在、日本では多くの業種で人手不足が問題となっています。

特定技能の対象分野は拡大され、技能実習制度に代わる育成就労制度も始まろうとしています。

今後も日本で働く外国人は増えていくことが予想されます。

しかし、外国人を受け入れるということは、単に「働く人」を受け入れることだけではありません。

その人たちは日本で働き、日本で食事をし、日本で休日を過ごし、日本で生活します。

そこで必要になるのが、生活する人間としての「居場所」です。

海外で生活して分かった「母国の居場所」の大切さ

私自身、これまでカナダ、ニュージーランド、イタリアなどで生活してきました。

海外で生活すると、現地の文化に触れ、現地の人々と交流することはもちろん大切です。

しかし、それとは別に、どうしても日本人同士で集まりたくなるときがあります。

日本食が食べたくなったり、日本語で気兼ねなく話したくなったりすることもあります。

そして、日本人が経営する飲食店や食材店などが、単なる「店」ではなく、日本人同士が知り合い、情報を交換し、困ったときには助け合う場所になることがあります。

海外で生活した経験のある人であれば、この感覚が分かる人も多いのではないでしょうか。

日本で生活する外国人についても、基本的には同じだと思います。

小さな外国人店舗は「コミュニティのインフラ」でもある

例えば、ある地域にスリランカ人が多く住むようになれば、スリランカ料理店や食材店などが生まれます。

そこでは料理や商品が提供されるだけではありません。

母国語で会話し、仕事や生活について情報交換し、新しく日本へ来た人に日本での生活について教える。

時には仕事や生活上のトラブルについて相談することもあるでしょう。

つまり、小さな飲食店や食材店が、外国人コミュニティにとって一種の「生活インフラ」として機能していることがあります。

「コミュニティ」は単一ではない

さらに重要なのは、同じ国籍だからといって、全員が同じコミュニティに居心地の良さを感じるわけではないことです。

「スリランカ人」「ネパール人」「ベトナム人」と一言で表現しても、一人ひとりの背景はまったく違います。

出身地域も違えば、宗教や文化、年齢、職業、家族構成、考え方も違います。

当然、人間同士ですから相性もあります。

そのため、「地域にスリランカ人の店が1軒あるから十分」という単純な話ではありません。

10軒の店があれば、

「私はこの店が好き」

「自分はあちらの店の方が居心地がいい」

「家族と行くならここ」

「仕事帰りならこの店」

と選択することができます。

重要なのは、単にコミュニティが存在することではなく、自分に合ったコミュニティを選択できることなのではないでしょうか。

小規模事業が生み出してきた「多様性」

これは市場の競争という意味でも重要です。

多くの人が比較的自由に商売を始められる環境では、事業者同士に競争が生まれます。

ある店は価格を重視する。

ある店は母国の家庭料理を提供する。

ある店は食材販売も行う。

ある店は夜勤の人が利用できる時間まで営業する。

それぞれが違った需要を見つけることで、サービスに多様性が生まれます。

そして、その多様性が結果として、外国人一人ひとりに「自分に合った居場所」を提供することにもつながります。

大規模な店舗では代わりにならないのか

ここまで読むと、「それなら資本力のある事業者が大きな店舗を作れば、同じ役割を果たせるのではないか」と思う方もいるかもしれません。

もちろん、大規模な店舗であっても外国人が集まる場所になることはありますし、地域の生活を支える重要な存在になることもあります。

しかし、私は小規模な店舗が持っている役割を、そのまま大規模な店舗で置き換えることは難しいと考えています。

これは外国人の店舗という枠を外して、日本の大手スーパーと昔ながらの個人商店を比べてみると分かりやすいかもしれません。

どちらも地域住民が買い物をする場所です。

しかし、大手スーパーと、店主が毎日店に立っている地域の個人商店では、お客さんと店側との距離が違います。

小さな店では、同じお客さんが何度も訪れるうちに店主が顔を覚え、やがて仕事や家族の話をするようになることがあります。

「最近あの人を見ないね」

「仕事を変えたらしいよ」

「今度この地域に来る人がいるけど、住むところを探しているらしい」

そんな会話から、人と人とのつながりや情報交換が自然に生まれていきます。

これは、最初から「コミュニティを作ろう」と計画して作られるものではありません。

小さな店で店主とお客さんが長い時間をかけて関係を築いた結果として、いつの間にか店そのものがコミュニティの一部になっていくものです。

大規模な店舗でも同じことが絶対にできないわけではありません。

しかし、大規模になれば従業員も多くなり、勤務する人も入れ替わります。業務も標準化され、多くのお客さんに効率よくサービスを提供することが必要になります。

これは大規模店舗の欠点という意味ではありません。むしろ、多くの人に安定したサービスを提供するために必要な仕組みです。

ただ、その仕組みは、店主自身が毎日店に立ち、常連客一人ひとりとの関係を積み重ねていく小規模店舗とは、そもそも性質が違います。

また、小規模店舗には、非常に小さな需要にも応えられるという特徴があります。

例えば、ある地域に特定の地域出身の外国人が100人しかいなかったとします。

大規模な事業者から見れば、100人という市場だけを対象に新しい店舗やサービスを作ることは難しいかもしれません。

しかし、その100人の中の一人が小さな店を始めるのであれば、その規模でも商売として成立する可能性があります。

そして、こうした小さな需要を拾う店がいくつも生まれることで、先ほど述べたコミュニティ内部の多様性にもつながっていきます。

つまり、小規模店舗は、大規模店舗を単純に小さくしたものではありません。

小さいからこそ拾える需要があり、小さいからこそ築ける人間関係があり、その積み重ねによって生まれる「居場所」があります。

大規模な店舗と小規模な店舗は、同じ商品やサービスを提供していたとしても、地域の中で果たしている役割までまったく同じとは限らないのです。

3,000万円という参入障壁

ここで経営・管理の在留資格の問題に戻ります。

3,000万円という資本規模を用意できる外国人は決して多くありません。

特に、小さな飲食店や食材店などを始めようとする人にとっては、非常に高い参入障壁になります。

もちろん、永住者や日本人の配偶者等など、経営・管理の在留資格を必要とせず事業を始められる外国人もいます。

そのため、外国人による小規模事業が完全になくなるわけではありません。

しかし、新しく日本で事業を始められる人が限定されれば、参入する事業者が減り、競争が弱くなり、結果としてサービスの多様性も失われていく可能性があります。

そして、それは外国人コミュニティ内部の多様性にも影響するかもしれません。

数字には表れにくい問題

この問題が難しいのは、その影響を数字として示すことが非常に難しいことです。

ある外国料理店が閉店すれば、その店の売上や雇用が失われたことは数字として把握できます。

しかし、

そこで母国語を話すことで安心できた人。

仕事の悩みを相談していた人。

日本での生活について情報を得ていた人。

同郷の友人を作った人。

そうした人たちが失った「居場所」の価値を金額に換算することは困難です。

さらに、その人が数年後に日本を離れたとしても、その理由と地域コミュニティの希薄化との因果関係を証明することも難しいでしょう。

だからこそ、政策の効果を数字だけで評価すると、見落としてしまうものがあります。

外国人を「労働力」ではなく「生活する人」として考える

日本は今後も外国人材の受入れを進めていくことになるでしょう。

だからこそ、外国人を単なる労働力として考えるだけではなく、日本で生活する一人の人間として考える必要があるのではないでしょうか。

外国で生活することには、想像以上のストレスがあります。

そんなとき、母国の料理を食べ、母国語で話し、自分と似た経験をしている人たちと過ごせる場所がある。

それが翌日からまた異国の社会で働くための小さな支えになることがあります。

外国人労働者の受入れを拡大する一方で、その人たち自身が作ってきた小さな「居場所」が生まれにくくなる。

もしそうなっているのであれば、現在の制度には、一見しただけでは分からない歪みが生じているのかもしれません。

経営・管理の在留資格の厳格化について考えるとき、資本金や雇用人数といった数字だけではなく、その先にある外国人の生活やコミュニティについても考えていく必要があるのではないか。

海外で生活した経験のある一人として、私はそんなことを感じています。


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