日本は「移民国家」になりつつあるのか

目次

海外で働いて見えた、日本との決定的な違い

最近、日本でも「移民」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

特定技能、育成就労、外国人労働者の増加――。
人手不足を背景に、日本社会は少しずつ外国人労働力への依存を強めています。

しかし、私は以前、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで働いていた経験から、日本はまだ「移民国家」とは少し違う段階にあるようにも感じています。

なぜなら、海外で私が見てきたのは、単なる外国人労働者ではなく、“定住していく外国人”だったからです。

ワーキングホリデーから永住へ

私が20代前半でカナダにいた頃は、日本人の間でも「スポンサーを見つけて永住を目指す」という話は珍しくありませんでした。

実際、ワーキングホリデーや留学をきっかけに現地へ残り、そのまま定住した日本人も数多くいました。

当時は、

  • 人手不足
  • 日本食ブーム
  • アジア系移民の受け入れ拡大

なども重なっており、「現地で働き続ければ、そのまま残れるかもしれない」という空気感が確かに存在していました。

美容師、料理人、自動車整備士――。
実際に多くの日本人が、現地で就労ビザを取得し、その後永住していきました。

移民国家では「職業の価値」も変わる

特に印象的だったのが、ニュージーランドで見た自動車整備士の需要の高さです。

ニュージーランドには大規模な自動車産業がなく、車両を輸入に頼ってます。
そのため、「壊れたら買い替える」のではなく、「修理して長く使う」という文化が強いです。

結果として、自動車整備士の価値は非常に高く、日本でトヨタ自動車系ディーラーに勤めていた日本人整備士が、高収入で働いているケースも実際に見てきました。

また、美容師も同様です。

日本人美容師は、技術力や接客の丁寧さを高く評価されており、現地で独立している人も少なくありませんでした。

そこには、「外国人労働者」というよりも、“社会に定着した移民”としての姿がありました。

そして、少しずつ変わっていった空気

ただ、私がニュージーランドに住んでいた頃には、カナダにいた時のような積極的に移民を受入れるという空気感とは少し異なっていました。

当時は、ちょうど永住制度の厳格化が少しずつ始まりつつある時期であったのです。

私がニュージーランドにいた頃は、まだ現在のような極端な物価上昇までは起きていなかったものの、住宅価格の上昇は非常に強く印象に残っていました。

当時印象的だったのは、ニュージーランドのオークランドで会社を経営されている日本人の方に教えていただいた話です。

日本でいうと、郊外の、しかも築50年以上は経過しているような一軒家が、当時の価格で3000万円もするという話でした。

私も実際にその家を自分の目で見ましたが、もし日本にあそこまで古い家が売りに出されていても、多くの人は買わないだろうなと当時思っていました。

背景には、海外資本の流入や、一部の海外富裕層による不動産の大量購入などもあり、現地では住宅問題が大きな話題となっていました。

実際、一部地域では住宅が大量に購入された結果、人がほとんど住んでいないような状態となり、“ゴーストタウン化”のような現象が話題になることもありました。

そのため、住宅価格上昇や現地住民と移民の所得格差なども徐々に表れてきていた時期であり、移民政策に対して保守的な空気が少しずつ醸成されてきていました。

そういった影響もあり、現地では、

「IELTSの基準が上がるらしい」
「最近かなり厳しくなってきた」

という、移民政策を徐々に厳格化していくような話を耳にすることも増えていました。

もっとも、その時点では、まだ移民受け入れそのものを大きく制限していたわけではなく、実際には多くの移民も入ってきていました。

そのため、現在のような急激な物価上昇とは、まだ少し違う空気感があったように思います。

コロナ後に加速した物価上昇

その後、新型コロナウイルスによって、世界的に人の移動やサプライチェーンが大きく停滞したことにより、外国人労働者の流入も止まり、物流や人材の流動性も大きく低下しました。

そしてコロナ収束後、一気に人の流れや経済活動が戻ったことで、人材不足や物流コストの問題が表面化し、急激な物価上昇につながっていきました。

もちろん、現在の物価高が移民政策だけで説明できるわけではありません。

ただ、外国人労働者の流動性低下や人材不足が、サービス価格へ影響を与えている側面は、実際にあるようにも感じます。

「外国人が増えると賃金が下がる」のか

日本では、「外国人労働者が増えることで、日本人の賃金が上がりにくくなる」という意見を耳にすることもあります。

確かに、その側面はあるのかもしれません。
ただ一方で、日本の安いサービス価格や生活コストが、外国人労働力によって支えられている部分があるのも事実だと感じます。

例えば、

  • 飲食
  • 建設
  • 物流
  • 解体
  • 介護

など、人手不足が深刻な業界では、もし人件費が大きく上昇すれば、そのコストは最終的にサービス価格へ反映されていく。
実際、オーストラリアや現在のニュージーランドでは、飲食、美容、修理など、生活に密接したサービスの価格は日本よりかなり高いです。

つまり、「賃金上昇」と「物価上昇」は、完全に切り離して考えられるものではないのだと思います。

日本は、どのように外国人を受け入れているのか

ここで一つ気になるのが、日本は本当に“移民国家”になろうとしているのか、という点です。
確かに現在、日本では外国人労働者が増えてます。

しかし、その多くは、

  • 特定技能
  • 技能実習(育成就労)
  • 技術・人文知識・国際業務
  • 経営管理

など、「働くための在留資格」による受け入れです。

つまり、日本は外国人労働力には依存し始めている一方で、“定住前提”で外国人を受け入れているわけではないという点です。

ここは、私が見てきたカナダやオーストラリア、ニュージーランドとは大きく違う部分でもあります。

日本と移民国家の決定的な違い

カナダやオーストラリア、ニュージーランドでは、以前は永住権への道が比較的広く設計されていました。

ワーホリ、留学、就労ビザ――。
それらは単なる一時滞在ではなく、「定住への入口」という側面を持っていました。

しかし、日本は少し違います。
日本の永住許可は依然として厳しく、

  • 長期在留
  • 納税
  • 年金
  • 安定収入
  • 素行

など、多くの条件が求められます。

つまり、日本は外国人労働力には依存し始めている一方で、カナダやオーストラリアのような“定住型移民国家”とは、まだ制度思想そのものが異なっているようにも見えます。

日本は今、どこへ向かっているのか

今後、日本でも外国人労働者はさらに増えていくものと思われます。

しかし、それが「移民国家化」なのか、あるいは「外国人労働依存社会」なのか――。
その違いは、今後の永住制度や社会の受け入れ方によって大きく変わっていくのだと思います。

私は海外で働いた経験を通じて、移民国家では単に外国人が増えるだけではなく、労働市場やサービス価格、社会構造そのものが変化していく姿を見てきました。

日本もまた、今、その入口に立ち始めているのかもしれません。


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