本格インド・ネパール料理店に前菜バイキングという選択肢──元料理人が考える一つの仮説

目次

はじめに

私は以前、某イタリアンレストランチェーン店で料理人として勤務していました。

そこのお店では、ランチ、ディナー共に前菜バイキングとフリードリンクがセットになっており、メインのパスタやピザ等を選択できるという形式でした。

当時は日常の業務として携わっていましたが、この前菜バイキングという仕組みは、「よく考えられた業態モデルだ」という印象が今でも残っています。

その後、行政書士として外国人経営の飲食店を訪問するようになり、これまでGoogleマップで確認した店舗も含めると、数千件規模のインド・ネパール料理店を見てきました。

しかし、今まで見てきたインド・ネパール料理店で、この「前菜バイキング」という形式を取り入れたお店を見たことがありません。

そんな中で、ふとあることを考えるようになりました。

「本格インド・ネパール料理店でも、前菜バイキングというモデルは成立するのではないか。」

もちろん、単純にイタリアンレストランチェーン店を真似するという話ではありません。

既存の成功モデルを、本格インド・ネパール料理店向けに再設計できないだろうか。

今回は、そんな一つの経営仮説を書いてみたいと思います。

バイキングには大きな魅力がある

バイキングは昔から一定の人気があります。

  • 好きな料理を選べる。
  • いろいろな種類を食べられる。
  • 好きな量だけ食べられる。

これは焼肉でも、しゃぶしゃぶでも、イタリアンでも、多くの業態で成功してきたモデルです。

インド・ネパール料理店でも、バイキングを採用している店舗はあります。

実際にお客様も多く、「食べ放題」という業態自体には十分な需要があると感じています。

しかし、本格インド・ネパール料理には一つの弱点がある

実際に店舗へ足を運び、Googleの口コミも読んでいて気付くことがあります。

それは、「出来たてだからこそ美味しい料理が多い」ということです。

代表的なのが、

  • カレー
  • タンドリーチキン

です。

タンドリーチキンは焼きたてなら非常にジューシーですが、保温時間が長くなると水分が抜け、どうしてもパサつきやすくなります。

カレーも同様です。

日本のカレーのように、一つの鍋を長時間煮込みながら味を完成させていく料理とは少し性質が異なり、本格的なインド・ネパールカレーは、注文ごとにスパイスの香りや仕上げの風味を生かして完成させる料理です。

そのため、長時間保温を続けると、スパイスの香りは少しずつ弱くなり、本来の美味しさも徐々に失われていきます。

実際、Googleの口コミでも、

  • カレーの味が普通
  • タンドリーチキンがパサパサだった

という感想を目にすることがあります。

これは店舗側も理解している課題でしょう。

一方で、前菜にも課題はある

だからといって、前菜であれば何でも作り置きに向いているわけではありません。

例えば、ドレッシングで和えた野菜などは、時間の経過とともに野菜から水分が出るため、味が徐々に薄まってしまいます。

実際、私が料理人として働いていた頃も、一定時間が経過した前菜は新しいものへ入れ替えながら品質を維持していました。

それでも、メイン料理と前菜では一つ大きな違いがあります。

前菜バイキングでは、一品をたくさん食べるというよりも、さまざまな料理を少量ずつ楽しむお客様がほとんどです。

つまり、一品ごとの品質変化が、お店全体の満足度に与える影響は、メイン料理ほど大きくありません。

だからこそ、「出来たて」を提供すべき料理と、「事前に仕込んで提供できる料理」をうまく役割分担できれば、本格インド・ネパール料理店でも前菜バイキングという業態には十分な可能性があるのではないか。

私はそう考えています。

ナンだけは事情が違う

一方で、ナンは少し違います。

ナンはタンドール窯に貼り付けて焼くため、一枚を焼き上げる時間は比較的短く、注文を受けてからでも十分オペレーションに組み込めます。

つまり、「焼きたてを提供しやすい料理」なのです。

だからこそ、多くのランチバイキングでも、ナンだけは注文ごとに焼き上げています。

料理の品質を保ちながら、提供スピードも維持できる。

ナンは、この条件を満たせる数少ない料理だと思います。

なぜカレーとタンドリーチキンは注文制が難しいのか

では、

「カレーも注文ごとに作ればいい。」

「タンドリーチキンも注文ごとに焼けばいい。」

となるでしょうか。

実際には、それはかなり難しいと思います。

理由は調理時間です。

タンドリーチキンは、

  • 漬け込んだ鶏肉を串に刺す
  • タンドールで焼く
  • 中までしっかり火を通す

という工程が必要になります。

当然、ナンよりも提供時間は長くなります。

ランチタイムに次々と注文が入る状況では、かなりオペレーションが厳しくなるでしょう。

カレーも同じです。

出来たてを提供するなら、仕上げまで一定の時間が必要になります。

もしランチバイキングで、お客様全員に注文ごとにカレーを作り始めたら、おそらく厨房は回らなくなります。

だから現在のランチバイキングでは、大量に仕込み、保温しながら提供する。

この形になっているのだと思います。

私が以前勤務していたイタリアンレストランで学んだこと

以前勤務していたイタリアンレストランでは、前菜バイキングを採用していました。

しかし、パスタやピザなど、出来たてが価値になる料理は必ず注文を受けてから調理します。

一方で、前菜も時間とともに品質は変化しますが、一定時間ごとに入れ替えながら提供することで、十分に品質を維持することができました。

つまり、「すべての料理を同じ提供方法にする」のではなく、それぞれの料理の特性に合わせて提供方法を分けるという考え方です。

このオペレーションは非常に合理的でした。

前菜バイキングを成立させるもう一つの条件

実は、前菜バイキングで最も重要なのは料理ではありません。

仕入れです。

私は当時、発注業務も担当していました。

その中で印象的だったのが、

一般的な市場流通だけに頼らず、

通常の流通では扱いにくい野菜も積極的に仕入れていたことです。

形が不揃いだったり、

少し古かったり、

一般販売には向きにくい野菜も含まれていました。

もちろん、中には傷みがあり、使用できないものもありました。

そういったものは取り除きながら使用していました。

しかし、その分、仕入れ価格は非常に安くなります。

前菜バイキングでは大量の野菜を使用します。

だからこそ、このような複数の仕入れルートを確保し、食材原価を抑える工夫が業態全体を支えていたのだと感じています。

本格インド・ネパール料理店でも応用できないだろうか

ここからは私自身の仮説です。

例えば、メインとなる

  • カレー
  • ナン
  • タンドリーチキン

は注文ごとに提供する。

その代わり、前菜だけをバイキングにする。

さらに、通常とは異なる仕入れルートを開拓し、野菜の原価を抑えるための独自の仕入れルートを確立する。

この二つを組み合わせれば、料理の品質を維持しながら、食べ放題という付加価値も提供できる可能性があります。

もちろん、このモデルは簡単ではありません。

私が以前勤務していた飲食店でも、前菜バイキングを成立させるためには、単に料理を並べるだけではなく、オペレーションそのものを細かく設計していました。

例えば、ホールスタッフだけでは前菜の補充や品質管理まで手が回りません。

そのため、キッチンとホールの中間に立ち、前菜の補充や品質管理を担当するスタッフを配置していました。

この担当者がいることで、

・前菜の補充
・見た目の管理
・品質確認
・キッチンとの連携

を円滑に行うことができました。

一方で、当然ながら人件費は増加します。

つまり、このモデルは料理だけではなく、人員配置まで含めて設計しなければ成立しません。

また、前菜バイキングでは野菜の使用量が非常に多くなります。

そのため、食材ロスをいかに減らすか、どのタイミングで補充するか、どれだけ仕込むかなど、細かな管理も利益を左右します。

さらに、一定の客数がなければ、人件費を回収することも難しくなります。

つまり、この業態はある程度の客席数と回転率があって初めて成立するビジネスモデルなのです。

だからこそ、このモデルは簡単には真似できません。

しかし、逆に言えば、このハードルを乗り越えられれば、本格インド・ネパール料理店でも差別化できる可能性は十分あるのではないかと私は考えています。

しかも、最近では経営・管理ビザの要件厳格化によって、外国人による本格インド・ネパール料理店の新規出店のハードルは非常に高くなっています。

今後は新規出店のペースが鈍化し、既存店舗の閉店も重なれば、市場全体は少しずつ縮小していく可能性があります。

しかし、飲食店の価値は「店舗数」ではなく、「お客様から選ばれる理由」があるかどうかです。

競合が増え続ける市場よりも、新規参入が少ない市場の方が、明確な差別化を実現できた店舗は相対的に存在感を高めやすくなります。

前菜バイキングのような独自の業態も、その一つの差別化要素になり得るのではないでしょうか。

経営管理ビザの厳格化についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
※参考記事:経営管理ビザ厳格化で「インネパ料理店」は逆に追い風になる?

おわりに

焼肉、しゃぶしゃぶ、イタリアン。

これらの業態は、食べ放題という仕組みを、それぞれの料理に合わせて進化させてきました。

一方で、本格インド・ネパール料理店では、私が見てきた限り、この考え方を本格的に取り入れた店舗はほとんど見当たりません。

もちろん、このモデルが成功する保証はありません。

しかし、既存の成功モデルを、本格インド・ネパール料理店向けに再設計する。

そう考えると、まだ開拓されていない可能性が残されている市場なのではないか。

そんなことを、営業先のインド・ネパール料理店へ行く際によく考えています。


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